月3万円ビジネス(晶文社刊)
藤村 靖之著
有機農業から社会福祉活動、エンジンの修繕からwebサイトのプログラミングまでこなす達人、M氏からお借りした本。なんというか、目から鱗が落ちた。
一見、ビジネス書や啓発本のように見えるけれど、そういった類の掃いて捨てるほどある、エセ某が名刺代わりに出しましたという内容ではない。いま現在の貨幣を中心にした経済では、人間を評価する機能に乏しい。その答えを求めることはもはや至近の問題であり、右だの左だのイデオロギー論をぶってる場合ではない。その答えは効率の追求から脱したローカルなコミュニティの中にある。
戦後のとりあえず何とかしないとの時代を過ぎ、高度成長期を終えた日本にはもうそれほどの高効率は必要ない。成長し続けなければ破綻する貨幣を中心とした経済システムは立ち行かなくなった。脂ぎったおじさんたちは今でもバブルの夢をみているようだけれど、競争し、専門性を先鋭化し、グローバルに拡大し続けるには限界がある。
高級車やブランドバッグで一時しのぎに虚栄心を満たしたとしても、その先は常に消費し続けなければならない。そして消費するためには稼ぎ続けなければならない。ストレス発散するための金を得るためにストレスを溜めて働いている。そんな負のスパイラルから抜け出て、刷り込まれたマインドセットを問いなおす時期にきている。
そこから競争よりも愉しさを、専門性より複業化を、グローバルよりもローカルを、そして永きに渡って循環、継続できる生産的でクリエイティブなライフスタイルが見えてくる。自給自足という言い方は食糧と相性が良いので食べ物の話ばかりかと思われがちであるが、サービス業や文化面に至るまでその可能性はある。人任せにせず自ら知恵を絞れば、もっと豊かに暮らせるのである。
ニッチなジャンルで音楽の仕事に関わってきた自分たちは、意図せずとも小さい規模の、顔の見える範囲のコミュニティだからこそ出来たあれこれにたまたま身に覚えがあるものだから、効率や営利を求め過ぎないからローカルで循環できる本書の筋立てをリアルに想像するのが簡単であったのかもしれない。運良く阿呆だったとも言えるけどね。
そんな、これまで漠然と考えていたことが綺麗にまとめて書かれており、なんだか脳の中身を覗き見られたような気分になった。もしかしたら、そんな風に感じる方は多いのではないかと思う。
それから、困難な社会問題を解決するための提言というような切り口ではなくて、愉しいことが大好きな人間がより面白く暮らすためのヒントという方向から書かれているのも素敵です。