2013年06月30日

地球少女アルジュナ

「もしも言葉が過ちなら、どうして人は言葉に頼るの?」

「言葉は形を与えるから。」

「形?」

「言葉は移ろいやすい気持や、計り知れない現実に形を与え、その形をいくつも組み合わせることで流れ去る記憶をまとめたり、まだ見ぬ未来へ想いを巡らす力を与えた。人はもし言葉に出会わなければこんなふうに考えることさえできなかったのかもしれない。」

「言葉が考えを?」

「しかし人は言葉の力に夢中になるあまり、言葉を記す文字さえも生み出し、過ぎ去った時を長く書き留め、言葉に囚われ今を生きることを忘れた。」

「そう、今を忘れ、自分と同じ言葉を話す人間以外の、天高く舞う鳥や、けものや、野に咲く花や、森や、海や、目に見えぬそよ風の、言葉にならぬささやきを忘れていった。」

「忘れたのは鳥や風のささやきばかりじゃないわ。人間同士だって、同じ言葉を話す人と人とだって、いつも気持ちはばらばらじゃない。」

「やむを得まい、言葉は分けるのが仕事だから。」

「言葉が、分ける?」

「君とぼくが呼びあうとき、二つの名前は、君とぼくを遠く離れ離れに分けていく。」





 
posted by abesin at 23:59| Comment(0) | 未分類
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