
この映画は、改憲派からGHQによる押し付けであるからと改正する理由される日本国憲法が、そもそもは日本人の憲法学者、鈴木安蔵の草案に大きく影響を受け成り立っているのではないか、という投げかけがテーマである。
鈴木安蔵は戦中、政治犯として特高警察によって投獄された経験を持つ。昨今、世論が右傾化するなかで、現憲法の成り立ちを掘り起こそうというコンセプトで映画に仕立てた、全国の9条の会には頭が下がる思いです。
しかし、改憲反対派の問題点と同じ弱点が、この映画の出来栄えに凝縮しているように思う。伝えたいことが多すぎて、また各方面に配慮しすぎて、論点がバラけてしまっているのだ。誰に伝えたいのか、何を伝えたいか。いまいち刺さらない。
日本国憲法は世界に先駆けた平和憲法であり、戦争の放棄、男女の地位の平等など、その先進性には枚挙に暇がない。だから、戦後の天皇に対する処し方であるとか、自衛隊の存在に対する矛盾、アメリカがソ連を始めとする他の戦勝国に先駆けたいが為に成立を急いだという成り立ちなど、切り口といえば多岐に渡る。ひとつひとつ大切なことであるのは確かだけれど、そのすべてを映画の中で語ろうとすれば無理が出てくるのではないか。
もうひとつ、ドラマ仕立てになっているのも史実とフィクションが入り乱れて分かりにくさをよんでいる。派遣社員の女性記者がひょんなことから鈴木安蔵に関する取材をすることになるという筋立てだ。憲法に興味が無い視聴者には、このドラマ仕立てによってとっつきやすいつくりになっているのかと思いきや、絶望的に演出と脚本が寒く、面白くない。
逆に、ある程度の興味を持っている層には、このドラマ仕立てであることによって事実とフィクションの境目が曖昧になり、結果として情報量が少なくなり物足りない。この映画にとって鍵になるはずの、現憲法に日本人の声が織り込まれている証拠については、50年代に入ってからの自民党分科会の議事録に留まっており、あとは鈴木安蔵の草案とGHQの草案が似ているという以上の証拠を示せていない。
低予算で頑張って作られているのかと思いきや、役者やテーマソングの歌手には知名度の高い人が担当していたりするのも不思議だ。
いま、憲法が憲法としての機能を失うかもしれない危機的な状況で、重要な位置を占めるテーマであっただけに残念である。誰にでもお薦めできる映画とは言い難い。