牛丼屋「M」で食べていたときのこと。数席隣の巨漢が大盛りの牛丼を二人前、抱え込むようにしてせっせと箸を動かしていた。そんなのは個人の勝手だし、自分も暴飲の気があるので何も言えた義理はないのだが、ただ気になったのは味噌汁が二つ付いてきていることだ。「M」では一人前に対して必ず味噌汁が付いてくるので当然の結果であるが、一汁三菜などと称してお椀の数と内容にそこはかとない風情を感じてきた我らとしては、なんとも不自然な光景だ。
彼が巨漢になったのは様々な要因があろうが、問題はその食卓の奇妙さにヒントを得ることなくして食事をする毎日なのだろう。ちょっとおかしいよ、って二杯の味噌汁が語りかけてくれているのに気づけなかった結果がアレなんである。とりあえずここは一人前のみに留め、隣の肉屋でコロッケでも買うかなんて考えても悪くない。肉屋の店先で満腹中枢が働いてくれるかもしれない。三時のお茶は砂糖が入ったコーヒーを許す、でもいい。味噌汁が別売りの「Y」にする、なんてのも手としてはアリだが肥満対策にはならない。む、当たり前だ。
大体、二人前頼まれたから味噌汁も二人前、なんて思考停止なチェーン店も気持ち悪いと思う。フランチャイズのマナーとしてそれは無理なのかもしれないけど。
私が気に入っていてよく足を運ぶラーメン店などは、客の顔を見てトッピングの野菜の量が変わる。それは決してえこひいきなのではなくて、体育会系ノリで「満腹イコール幸せだろ?」のようなポジティブな思想がそうさせているのである。それはあくまで主観だから小柄な女性が意外と大食い、みたいな失敗をするかもしれないけ。だけど、同じ味噌汁が二杯も配膳されてる光景よりも私はこっちを好むのである。少なくとも主観という遊びが介入している時点で「もっと野菜くれ」と言える可能性が残されている。「M」で味噌汁は一杯でいいから豚汁に変えてくれと言ってみてもいいのだけれど、やっぱり言いにくいのである。